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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)3181号 判決

控訴人

赤上弥平

右訴訟代理人

倉本英雄

被控訴人

中野谷健

右訴訟代理人

関藤次

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

《前略》

(控訴人の主張)

《中略》

二、被控訴人はその個人企業に新光商事有限会社(以下訴外会社という)の名称を使用して、控訴人と本件土地の売買契約(以下本件売買契約という)を締結したものであり、控訴人は訴外会社の法人格を否認する。訴外会社の資本金は五〇万円であつて、被控訴人が全額出資し、取締役は被控訴人及びその妾で、監査役はその妻であり、独立の事務所や従業員もなく、被控訴人の自宅で、家族の者が補助的仕事をしている程度であつて、事務の大部分は被控訴人が自らやり、固有の資産、電話、株券の発行、帳簿の備付けはもとより、社員総会を開いたこともないような全くの被控訴人の個人企業である。

《後略》

理由

一当裁判所は当審における弁論及び証拠調の結果を斟酌しさらに審究した結果、被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容し、控訴人の反訴請求は失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は次のとおり付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、その説示を引用する《省略》。

控訴人はまず、法人格否認の法理を適用し、被控訴人に本件売買契約不履行による損害賠償責任があると主張する。なるほど〈証拠〉によると、本件売買契約書の作成に当つては、会社と個人を混同したきらいがないでもないが、しかし〈証拠〉をあわせると、本件売買契約当時訴外有限会社においては、出資口数五〇〇口中二〇〇口を被控訴人が所有し、残り三〇〇口を同人の妻のほか、菊地政信及び黒崎一郎が各一〇〇口あてを所有していたこと、代表取締役は被控訴人であるが、右菊地が取締役、右黒崎が監査役であり、自宅のほかに事務所があつて、一人の事務員をおき、資産こそないが(昭和四一年には山林五反六畝歩余を取得した)、法人町民税を納入していたこと、訴外会社は昭和三五年一二月二四日金銭貸付業を目的として、資本金五〇万円で設立し、本店を茨城県久慈郡大子町大字大子七九四番地の一においていたが、その後宅地建物取引業者の免許を取得して、不動産の売買あつ旋管理をその目的に加え、資本金を一〇〇万円に増加するとともに、本店を同県東茨城郡大洗町磯浜町一九二番地に移したことが認められ、右認定を覆す証拠はない。右認定事実によると、本件売買契約当時、訴外会社は小規模な組織であり、被控訴人がその運営全般を主宰していたものではあるが、その事業活動の全般から考えると、訴外会社は法人としての実体を有し、法人格が全く形骸化したものであると断定することは困難であり、また被控訴人が法人格を不当あるいは違法な目的で利用したと認めるに足る証拠はない。してみると、訴外会社の法人格を否認する控訴人の主張は採用できない。《以下省略》

(渡辺一雄 田畑常彦 宍戸清七)

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